ヒロアカ劇場版〜紡がれる作品の本質〜

 

みなさんこんばんは。アベニティです。

 

まず公言すべきは、私は生粋の漫画好きであるということ。ノージャンルでほぼ何でも好きだが、とりわけ週刊少年ジャンプは中学生の頃から親しんできたジャンルであり、その中で今や看板漫画となった『僕のヒーローアカデミア』は連載開始当初から熱く追っていた一作であった。

 

そんなこんなで、この作品は公開直後に劇場へ足を運んだ。純粋な感想として、劇場版アニメとしてかなり高水準な出来になっていたと思う。終盤では予想外に泣かされたし、原作内容を反芻させてくれるという意味では中島かずき脚本・高橋渉監督の『逆襲のロボとーちゃん』、黒岩勉脚本・宮本宏彰監督『ONE PIECE FILM GOLD』に並ぶ完成度だといえる。

 

 

X-MENを始めとする群像ヒーロー物では、特殊な能力を持つ人間は純粋に数が少なかったり活動が法規制されていたりするパターンが多い。その設定の中でマイノリティとしての苦悩が細やかに描かれていたりするのだが、『僕の〜』の世界観はその全く逆であるというのがちょっと新しい。圧倒的マジョリティである超能力者が自らの力を“個性”と呼ぶ、ヒーロー活動が職業として公認された世界。特殊能力を持たずに生まれながら、苦悩とたゆまぬ努力を重ねて夢への切符・ヒーローへの道を手にする主人公の姿は、幼い読者層よりも「まだ自分が何者でもない」ことに悩む思春期前後の少年少女にこそ響く内容になっていると言える(ここまでのシークエンスが抜群に光る第1巻の構成、マジで日本漫画史に残る完成度)。また成長していく彼に周囲が触発され、人々の在り方が徐々に変化していく様子も細やかに描写されており、彼を取り巻くキャラクター達の中におおよそ「モブキャラ」と呼ぶべき個が存在しない点も特筆もの。様々なアメコミ作品からの引用・オマージュも元を知らずに見ても楽しめる具合であり、隅から隅にまで作者の愛を感じるために読み返すのがたまらなく楽しいシリーズになっている。

 

 

 

僕のヒーローアカデミア 1 (ジャンプコミックス)

僕のヒーローアカデミア 1 (ジャンプコミックス)

 

 

 

 

 

さて、そんな原作の劇場版アニメ。

ヒーローになりたい主人公と彼の精神的素養を見出したトップヒーロー・オールマイトの師弟関係を再確認出来る前〜中パートはよくまとめ上がっているとは言え概ね予想の範囲内だが、本当にグッと来たのはゲストキャラの胸中が語られてからである。平和の崩壊を憂い、失われつつある象徴を守ろうと道を違えた“とある人物が、今歩き始めんとする未来の象徴=デクの姿を目にして自己の行いを悔いる。ここまでのシーンがひたすらにエモい。この原作イズムがちゃんと汲めていることでヒロアカの1エピソードとしてきちんと成立させられていたと言えるし、このストーリーテリングボンズによる作画充実度が付与されることでかなりレベルの高さを感じる仕上がりに。レギュラー声優陣の熱演も言わずもがな(特に主役の山下大輝は成長の伸び幅が著しいの一言に尽きる)だが、特別出演の生瀬勝久志田未来の演技があまりに自然すぎて驚かされる。それぞれの要素が互いに足を取られることなく、小気味よくまとめられており観ていて始終気持ち良かった。

 

 

ちょっとTVアニメに寄り過ぎた風のエフェクトや、一見さんお断りなキャラ描写から言ってもあくまでファン向けと言った内容だが、別視点からみた本編補完作としてかなり満足できる一品に。原作・アニメを知る人なら是非劇場へ足を運んでもらいたい。(終)