アニメ 宝石の国~楽しい耽美と倦怠の結晶~

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出典:https://www.lisani.jp/0000069103/

 

先日友人の男と酒を飲む機会があり、飲み屋からそのまま彼の家へ向かったのだがトイレに花沢健吾の『ボーイズ・オン・ザ・ラン』と『ピューと吹く!ジャガー』が並んでいて、なんか猛烈に感動してしまった。そんなチョロいアベニティのメガメガ感想雑記、今日は『宝石の国』について語ります。理由は今月末に発売されるフィギュアが大変楽しみだからです。昨年までは原作の名前を知っている程度だったし、自分でもここまでハマるとは思ってなかったけど、やっぱり良いものは良いしグッと惹き付けられるもんです。

 

■あらすじ~ポストアポカリプスな寓話~

 

遥か太古に”にんげん”が存在したと伝えられる遠い未来の世界。6度の流星飛来によって海中へと沈んだ地上の生物らは「微小生物」に食われて無機物となり、そこから宝石の体を持つ人型の生物が生まれることとなったーーー

それぞれの身体を構成する鉱物の名で呼ばれる28人の”宝石”たちは、絶えず月から来襲し宝石たちを攻撃・拐っていく月人(つきじん)との戦いを繰り返しながら、残された陸地で彼らの指導者である金剛先生の元で長い時間を暮らしていた。

宝石の中で一番若いフォスフォフィライトは、硬度が三半(ダイアモンドで十程度)と低く脆い性質である。その上他の仕事に適正がなく、自分にだけ役割のないことに不満を覚えながらも根拠のない自信を元にめげずに日々を過ごしていた。そんな折、フォスは遂に金剛先生から博物誌作成の仕事を与えられるが、彼が任に就いて間もなく夕暮れ時に月人の襲撃を受け、夜の見回りを役割とするシンシャに助けられるーーー

 

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出典: https://twitter.com/houseki_anime/status/931457351046983680

 

原作の漫画は、上記の通りポストアポカリプス物である。

人類の文明などとうに崩壊した遠未来に生きる人型をした知的生命体が、一人の指導者の指示の元で暮らす世界が舞台。そこで主人公である個体が指導者への献身的精神から自らの可能性を試したいと行動、様々な事態と対面して世界の正体“禁忌”に触れていく。

 

この展開が、計算が届いたコマ割りとリズミカルな稜線、絶妙な台詞の間で描き出されているのが原作の漫画である。可憐な日常譚や束の間の平穏を挟みながら彼らの戦いはシビアに展開、主人公は自らの身体部位を失いながらも、施術によってそれらを別の物質で補うことで徐々に身体能力を発展させていき、同時に五体に宿るとされる自我さえも変化していく…(ここに市川春子が好きだとする洋画、『スター・ウォーズ』や『ロボコップ』の四肢欠損イズムを感じたり)。

 

物語が大きく動き出してからは、大陸上での体制と反体制の衝突劇へと転じていくのだけれど、ここにも不穏な勢力の構図が見え隠れしていて全く読者の油断を許さない。端的に言って完成度の高さが面白さに直結している作品である。

 

ただ、攻防アクションが主軸にある作品だからと言って、ダイナミックな活劇だけが見どころではない。原作主人公・及び主要キャラクターが世界の構造を知っていく時の、絶望にも似たあまりの倦怠に息が詰まる程の画の余白、空気感。これこそが市川作品の妙味であって物凄くそそられる。憎むべき”敵”かもしれない存在以上の、巨大な諦感との戦いだ。

 

このテイストはそのまま「大人になること」へのどうしようもないつまらなさにも似ている。周囲との折り合いが必要とか、暗い事実から目を背けて安寧に暮らすことが美徳だとか。また”宝石”達の間に流れる同調圧力の不気味さは現実世界と地続きのものであるからこそ肌に生々しい。思考が単純化されたキャラクターによって綴られる故に、ダイレクトにうっと来るものがある点にフィクションの力を感じるところだ。

本質はファンタジックなSFでありながら、全編に漂うのはノージャンルの香り。各キャラクターの造形に宿る絶妙にフェチズムなラインも、童話ともSFともつかぬ味わいを醸すのに一役買っている。強いて言うなら”寓話”だろうか。

 

■アニメの再現度

 

TVアニメ版は原典の雰囲気含め、全てをそのまま映像として落とし込む技巧が何より凄かった。3DCG(と一部手書きアニメーション)を駆使した劇場公開作と見紛う大胆なアクション以上に、質感の表現と微細な音へのこだわりには「3ⅮCGのアニメは無味で退屈」等と敬遠する人ほど驚かされるものがあると思う。3Dモデル特有の「ちょっと引っ張られているようなゆらゆらした動き」もキャラクターの非人間性(内外共)を引き立てるのに一役買っていて。確かにキャラクターそれぞれに実在感はあるのだけれど、決して生きた人間ではないと直感させる塩梅が見事。原作では割とがらんどうに見えた背景への味付けも宝石たちとの対比に成功していた。

 

綺麗で、妖しく、危うい世界観を抜群に魅せるエフェクトの数々も言わずもがなの美点だ。原作の一筋縄では行かない空気感を極めて高い純度で再現し、新たな視覚的面白さを上乗せする手管には本当に参りました。声優陣の熱演も出色で、中田譲治(この時期、TVアニメにおける重鎮キャラは大体この人が担当してた)小松未可子茅野愛衣らの安定感、難しい役柄である主役の幅を魅せ切った黒沢ともよの快演と非常に隙が無い。

 

毎度絶対に読ませてくれない先の展開だが、やっぱりキーは主人公とシンシャになってくるのだろう。金剛先生が「古代生物の欠陥」と暗に忌んだ”涙を流す”機能を備えているのが(確か)この二人だけである〜というのが何らかの伏線であって欲しい。フォスは脆い身体を戦いの中で欠損させ、その度に様々なマテリアルの義肢を備えて見違えるように強くなっていくのだが、皆がその変化を無邪気に喜ぶ中で(ここもちょっと不気味で面白かった、誰も主人公の過去の性質が喪われていくことを残念がらない…)唯一グレーな反応を示していたのがシンシャだったし。

 

原作はついにとんでもないところに行ってしまって完全にどうなっちゃうの~(喜)状態だが、私は映像としてこの続きが観たい。最新巻とアニメ二期、そしてフィギュアの到着を首を長くして待っている。(おしまい)