僕のヒーローアカデミア vol.20〜集大成的な高揚感。

 

 

僕のヒーローアカデミア (ジャンプコミックス)

 

夏休み期間というだけあって8月〜9月にはさまざまな漫画が刊行されましたが、個人的にばっちし心に残る一冊といえば『僕のヒーローアカデミア vol.20』。ヒロアカ、本当に大好きなのでジャンプを手に取っても飛ばし読みして単行本を待っているレベルなんですが、20巻はかなり力が入った感じ、密度モリモリで面白かった。

 

◼︎巧緻な『人vs.人生もの』としてのヒロアカ

 

 

やっぱり、ヒロアカ20巻を読み返して思うのは「この人、めっちゃ絵が上手いな…(この人に描けないものあるのか…?)」「主人公が自身のifと対峙する展開はいつもバカアチいよ…!」ということ。

 

近年のフィクション媒体の作品にはよく「主人公のifが悪役として立ちはだかる」展開が増えたと思う。

 

アクション、グルメ、ファンタジー…どんな内容が扱われている作品にしろ、そこに主人公と似た出自(ifの性質)を持つキャラクターが置かれれば、そこにはドラマチックな展開が発生する。

 

この巻におけるその役回りを担うのはジェントル・クリミナル。個性を上手く扱えず、成績が悪かった高校時代に勝手なヒーロー活動で人に怪我を負わせて退学。親からも勘当された彼はその後もう一度正義の道に憧れ、義賊youtuberとして(サイドキックと共に)雄英高校・文化祭への侵入を企てる。この痛々しさ!こういうのは悪役が人間的な弱さを備えた上にみっともないほど良い。

主人公が“もし”今のような境遇にいなかったら?「今」における気づきがなかったら?そのまま長い時間を過ごしていたら…?という問いを投げかけてくるキャラクター。この存在の影響を受け、自分の人生に真に向き合う主人公への強調が生まれる。

 

当巻ではあまりこの点がデクの口から言及されることは無かった(そこまでこのヴィランとの人格的な一致も無かったように見えたし)が、戦いが終わった後の台詞で「自分もそうなってたかもしれないから」「僕もジェントルも似た思いを持っていたから」〜と明かされ、自身と重ねて認識していたことが分かる。

 

そして(私的な話になるけど)その構図からなる『人vs.その人生』の主題に私は弱く、ヒロアカ20巻に関しては何度も再読してボロ泣きした。堀越耕平は、どうしてこう「自分の欲望・目的のために大切なものを蔑ろにしてしまった人」「ワケあって自身が望む道から閉ざされた人間」を描き出すのに長けているんだろうか。彼の人生経験によるものなのか。これに関しては筆者本人の明確な発言がなく、どんな想像も推測の域を出ないために言及を避ける。

 

◼︎“ロッキー”になれなかった連中の物語

 

ロッキー』(ジョン・G・アヴィルドセン監督、1976年)は人生、“自分自身の価値”に挑んで勝利した男を描いた名作だが、ヒロアカにはそこで敗北を喫した、まさにロッキーになれなかったボクサーのようなキャラクターの有り様が生き生きと、ある種のリアリティを持って迫ってくる。むしろ『レスラー』(ダーレン・アロノフスキー監督、2008年)でのミッキー・ローク的な境遇で描かれた人物の方に訴求力を感じるというべきか。

 

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まず、本巻におけるヴィランのジェントル・クリミナルとラバラバのペアがそう。言わば社会・彼らを見る世間に拒絶され、生きる道を限定された二人の物語はそれぞれ「人生の落伍者」の色を帯びている。

 

また彼らが互いに離れられないのは、自分達に欠けている・欲する部分をそれぞれが補うピースであることを知っていたからであろう、というのも泣かせる点だ(中編の幕切れにもう一越え、ジェントルがラバラバに対して愛情や思慕とは違う“感謝”を覚えるシーンが挟まれていたのが印象的。彼女の心境を思えば一抹の切なさがこみ上げる)。

 

20巻を最後まで読めば意外や意外、あの父親ヒーローもそういったタイプの人物だと明かされていく展開に舌を巻いた。彼もまた熾烈な日々に身を置きながらも過去を悔い、家族を危険に晒さんと生きてきた一人の人間だったと明かされる展開が熱くて高揚。厳格で父性的な側面が強くも、どこかで踏み間違えながらもまっすぐ前を見て生きる人物であった…。と明かされかけた時にまさかの事態が起こり、次巻へ持ち越し〜となってしまった。

 

思えば堀越さん、SWのカイロ・レン(彼もまた選ばれなかった側のキャラクター)が大好きと公言していたり、彼を結構良い塩梅でピックアップした堀越さん作のSWポスターが公開されたりしていたのを思い出す。

 

本質的にそういったキャラクターが好きな人なんだろう。思えばデク君なんて「幸運だった点」を除けばまさにそうだったし。(この件に関してはコミックナタリー…『「ヒロアカ」の堀越耕平、映画「最後のジェダイ」のポスタービジュアル描く』に詳しく掲載されています。https://natalie.mu/comic/news/260462

 

加えて↓

①学園ものならではのイベントシーン

②その裏で繰り広げられていた攻防

③さらに闇に紛れて見え隠れする不穏な勢力。と言ったこれら要素をうまいこと捌き一冊の分量中に纏め上げてしまう能力には感服するほかない。全部込みで、まさしく集大成的な趣きすら感じたほど だった。

 

◼︎まとめ   みんな空の下

 

いたいけな生徒もヒーローもヴィランも、みんな同じく悩みを抱えて生きているのだと均等に示されるヒロアカシリーズ、とても好きです。主な読者層である子供が読んで理解できるかは分からないが、このような丁寧な要素の積み上げは作品の熱心なファンとしては大歓迎。次にはキャラクター達をどんな試練が待ち受けるのか。彼らの運命やいかに…非常に楽しみです。

 

(終わり)