星野源 ドラえも〜〜〜ん!


星野源 - ドラえもん【MV & Trailer】/ Gen Hoshino - Doraemon

 

最近、星野源『アイデア』がカラオケBOXで流れていたのをふと思い出し、なぜかこの曲が聴きたくなってウォークマンを取り出した。

 

 

ドラえもん』は数ある星野源の曲中、5本指に入るくらい好きなものの1つで。

 

ウォークマンでも、 この曲は私のアニソンプレイリストの重要なところに登録している。爆弾ジョニーの『唯一人』(←湯浅政明ピンポン』のオープニングですね)とGLIM SPANKYの「怒りをくれよ」(『ONE PIECE FILM GOLD』主題歌、すでにちょっと懐かしい感ある)の間、全体にして中間のところで。中継ぎにちょうどいい安定感だしね。

 

うん…

 

 

やっぱ…

 

 

 

やっぱすげぇよ星野源!!!

 

 

 

まず、イントロ。大杉久美子が歌った『ドラえもんのうた』を思わせるテイストに誰もが気付く。この部分だけ耳にしても、多くの人があのシルエットと鮮やかなブルーを思い出すだろう。そしてこの曲へのオマージュは以降もニュアンス程度で譜面上に残されているように聞こえてくる。

 

上記についての確固たる証拠はなく、このパートがそうだ!という断定は難しいのだけど、アニメの挿入歌であった『青い空はポケットさ』や『ぼくたち地球人』で聞いたような音の端々にはとてもほっこりさせられる。

 

ただ、サビにはより明瞭に上記の曲と同じく菊池俊輔が手がけたドラえも~ん!』(←一時期『スネオが自慢話をするときに流れてる曲』との俗称が話題になった曲です)のアレンジが散りばめられているのが分かり、ギターの音に彼のソフトな歌声が絡む様に心が躍る。そして2番のサビを経た後には、また『ドラえもんのうた』を思わせる優しいスキャット(厳密には違うけど)へとなだれていく~。La LaLaLa…

 

ドラえもん Sound Track History?菊池俊輔 音楽集?

ドラえもん Sound Track History?菊池俊輔 音楽集?

 

なんたるサンプリングセンス。なんたる軽快さ。

 

また、この曲はアニメ作品としての『ドラえもん』ではなく、ファン全員が思い浮かべる作品のエピソード、または関連する事象すら歌詞に落とし込んでいるのが非常に素晴らしいのだ。

 

■歌詞えも~~~ん!

 

拗ねた君も 静かなあの子も
彼の歌も 誰かを救うだろう

 

出典:星野源ドラえもん

 

例えばここです。順にスネ夫しずかジャイアンのことが歌われているんだろうなぁといった風な解釈は出来れど、上段の2者は社会に溶け込めない存在、下段の「彼」とは「どれほど生きづらくとも”自身の創作物”でつながろうとした」人間、星野源のようだとは思えてこないだろうか。

星野源は常に、社会におけるマイノリティへの視線が温かい人間だと思っていた。

 

人と人、分かり合えない世界でも、それでも生活を続けていこうと歌う名曲『ばらばら』(2007年)、くも膜下出血の手術・闘病生活を経た後の『地獄でなぜ悪い』(2013年)。ミリオンヒットを記録した『』(2016年)にも、「声を上げられない」身である人々の圧倒的な「生きづらさ」がやんわりと表現されており、それに対し「それでも大丈夫、ぼくらは生きていける」とそっと諭すような器の大きさを感じるのだ。

 

台風だって 心を痛めて
愛を込めて さよならするだろう

 

出典:星野源ドラえもん

 

ここなんかは、てんとう虫コミックス6巻に収録の『台風のフー子』がイメージされた歌詞だと断言できる。

 

ドラえもんひみつ道具の一つ「台風のたまご」から誕生した台風のフー子。野比家両親の反対で一度は捨てられそうになるも、のび太の反対により彼の部屋で成長していく。そんな中、フー子は巨大台風の接近を知り、のび太と家族を守ろうとするように家を飛び出して巨大台風とともに消えてしまう…。

 

ドラえもん 6 (てんとう虫コミックス)

ドラえもん 6 (てんとう虫コミックス)

 

 

初見時、停電によって真っ暗になった野比家の画は幼心に怖いと思ったし、のび太が最後につむじ風を見てつぶやく、「小さな風を見ると思い出しちゃうんだ。フー子のことを。」と言ったセリフが印象的で。切なく、哀しい未知との遭遇だった。


作中でも結構な人気エピソードであり、2003年に『ドラえもん のび太とふしぎ風使い』(芝山努監督)のタイトルで劇場公開もされた。設定等に大きくアレンジが加えられた特別篇だったが~~~との旨は割愛。原作ファンであるという星野源にとっても印象に残るストーリーだったのだろう。

 

分かるよ!!!(←勝手)

 

 

いつか 時が流れて

必ず辿り着くから

君をつくるよ

どどどどどどどどど

ドラえもん

 

出典:星野源ドラえもん

 

このパートにあるのは、おそらく『ドラえもん最終話同人誌問題』にもなったファン創作の最終回についてだと思う。

 

90年代チェーンメールで広まっていた「電池切れで動かなくなったドラえもんを、ロボット工学者となったのび太が甦らせる」という内容の最終話をもとに、漫画家が田嶋・T・安恵ペンネームで2005年に漫画を執筆、ネット通販を通じて販売を行ったというもの。( 結果この二次創作は大層な売れ行きとなり、著作権者である小学館藤子プロ側は、藤子・F・不二雄の真作であるという誤認あまりに広まりすぎたため「想像していた以上に深刻な事態」と認識、翌年には同人誌作者に著作権侵害を通告~と、大変な騒動に発展した)。

 

この件についての是非ではなく、たぶん星野は「ファンが想像・創作したドラえもんのその後」すらも「ドラえもんの一部」なのだと言い切って見せたのだと思う。

一度世に出た創作物は、大勢の読者を得るにつれ物語・設定的な部分の二次的拡張は免れない。それまで含めての作品なのだと、歌詞の中で伝えているのではないか…という憶測。

 

まぁ、あくまで想像の範疇を越えるものではありませんが。ただこういった事象を匂わせるワードすら、ほとんど無邪気と言って良いほどあっさり歌詞に溶かしてしまう恐ろしさ、イケると判断する胆力(は本人のものであるかは分からないが)に感服である。イエローダンサーに踊らされる感覚、嫌いじゃないです…。

 

 

もっと探せばまだまだ星野流イースター・エッグが見つかりそうだけど、それをいちいち追わずともとても楽しくて柔らかい一曲です。『ばらばら』『時よ』『夢の外へ』『Crazy Crazy』に次ぐド傑作だと素直に思いますのだ

 

『ばらばら』を最初に聞いたときなんかは「ちょっとテイストが昔の”映画ドラえもん”っぽいな!!(?)」とか直感していたので、思えば本来の作品性とこのアーティストの邂逅には全然違和感が無かったわけである。俺って案外見どころあるな?自信が出てきました。

 

(おしまい)

 

ドラえもん

ドラえもん

 

参照文献:

asahi.com:「ドラえもん」最終話、勝手に出版した男性が謝罪 - 芸能一般 - 文化・芸能

藤子プロの突き上げが発端 ドラえもん最終話騒動の真相 - ライブドアニュース