DAOKO その確かな音楽性と『カルアミルク』

ステップアップLOVE (通常盤A)

 

最近、MP3ダウンロードしたステップアップLOVEをよく聴き返しているんだけど、通常盤Aには岡村靖幸の『カルアミルク』DAOKOが歌ったものが収録されていると今さら知って聴いてみることに。相変わらずのそそっかしさ情弱で今年の10月まで知らなかった自分に乾杯!!!()

 

 

 

これが、DAOKOの『カルアミルク』。

 

カルアミルク

カルアミルク

  • DAOKO
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

うん、ちゃんと上手い。歌い方もそつないし、まっすぐな印象が耳に心地いいのは確かだ。

 

それは確か、なんだけど…。

 

 

※これ以降は、若干厄介ファンの懐古が含まれます、ご注意ください。

 

■DAOKO、メジャーとアングラの間で

 

メジャーデビュー以前の彼女のアルバムを、私は今でも愛聴している。『Hyper Girl - 向こう側の女の子』(2012年)に『Gravity』(2013年)。特に『Gravity』に収録の楽曲はそれぞれ様々なアーティストとのコラボレーションが含まれていたり、若いながらも音楽の可能性の拡張に対する明確な意識を感じる内容で豪華である。個人的に好きなのは『△-△-△』、『Gravity (feat. Paranel & Jinmenusagi)』、『o○o○o』、そして『メギツネ (feat. PAGE & GOMESS)』

 

歌詞を執筆、楽曲を制作した年齢が思春期ダイレクトだったせいもあってか、漠然とした世間に対する不信と不気味に思えたであろう彼女を取り囲む世界の様相が洗練されきっていない言葉とメロディーで克明に描き出されている。それを超えて「私を見て!」「私の中の”物語”を聴いて!」との主張が垣間見える自意識の強さがすごく魅力的で。歌詞に使われる単語の美しさ、そこから想像される情景の美しさも忘れがたい。

 

GRAVITY

GRAVITY

 

 

故にメジャー以降のキラキラした、恋する私は無敵~という感じの(イメージがテンプレ過ぎですみません!!!実際はもっと違います)明快な曲を耳にすると、昔の彼女の楽曲を愛する身としては非常にこう、ある種の物足りなさを感じてしまう時もある。

 

しかし(一度はちょっとダンサブルなポップチューンに「???」となった時期もあったが、)最近はまた様々なアーティストとのコラボレーションで本来の彼女の持ち味を取り戻しつつあるとも思える。

 

 

ちなみに彼女は自身のコラボ観について、インタビューでこう語っていました。ちょっぴり本筋とは関係ないけど一応引用しておきます。

 

──DAOKOさんがいろんな人とのコラボで得たものって、どういうものだと思いますか?

コラボレーションする、誰かと一緒に作品を作るっていうのは、インプットだと思います。本を読むとか映画を観るとか、そういったものと同じように栄養だなと思うので。創作物に触れることで自分の感性が刺激されて、それが血となり肉となっていくという。それに、コラボするってことはその人のロジックを見れちゃうと言うか、一緒に「こういうふうに作ってるんだ」という過程を体感できるので。そういう意味ではいろんな栄養を得てると思います。

 

出典:DAOKO「THANK YOU BLUE」インタビュー | 多彩なクリエイターを迎えた新作で「青との訣別」果たす (3/3) - 音楽ナタリー 特集・インタビュー

 

そして、 この先の目標としてはメジャーでも、アンダーグラウンドでもどちらでもない存在でいたい、と語っていた。

 

──この先に関してはどういうイメージがありますか? お話を聞いていると、DAOKOさんって、音楽を含めたさまざまなカルチャーのハブと言うか、いろんな人が結び付く結び目のようなものになっている感じがあるんですが、それをより能動的にやっていくような目論見もあるんじゃないかと思います。

面白いことをやりたいっていう気持ちですね。メジャーになりすぎても、アンダーグラウンドになりすぎても自分を見失うと言うか、どっちかに寄りすぎてしまうことはつまらないなと思うので、どちらでもなくありたいなという感じはあります。

──大きな話で言うと、ジャスティン・ビーバービョークの両方でありたい、と言うか(笑)。

そうですね(笑)。

──つまりポップスターとしていろんなヒット曲に参加しつつ、先鋭的なクリエイターをフックアップするような存在になりたいという。そういう目標。

そうですね。なかなかいないですもんね。そういう気持ちはすごいあります。世の中に知られてなくてもすごく感動するものっていっぱいあると思うので、積極的にそういう人たちと一緒にやりたいなと思ってますね。普段ポップミュージックを聴いてる人が自分を通してアンダーグラウンドな音楽に出会ってしまうのはすごくうれしいし。そういうことをしていきたいです。何がポップかの基準はわかりにくいけど、全然知られてないものをポップミュージックにしちゃいたいと思います。

 

■きれい、されど物足りない味

 

そんな折でもあったから、この無難さにはちょっと肩透かしを覚えてしまった。

これでは、あまりにもメジャーに寄り過ぎてはいないだろうか?

 

音楽になりきらない音の集まり。

 

話し言葉やノイズすら“音楽”として曲の中に取り込んでしまう柔軟性。

 

暴走する自意識を抑えきれず沸々とこみ上げる単語を、「口に出さねば死んでしまう」と言わんばかりの訴求力で歌い上げる歌唱の魅力、彼女が自身のミュージックシーンで挑戦し、築いてきた斬新性がこのカバーには欠けている。

 

いやいや彼女のオリジナルと比較しても…とか突っ込まれそうだけど、いつか彼女がライブで披露した『歌舞伎町の女王』がすこぶる良かったから、というのも一つ理由としてある。2016年1月の、渋谷TSUTAYA O-EASTでのパフォーマンスをよく覚えている。

 

本家の椎名林檎とは違った魅力、人馴れしていない人間が持つある種の迫力を帯びた声音。中途に挟まれる、曲の物語性についての自己解釈が光るRAP詞にはちょっと興奮を覚えるほどで。

 

■ 『イケナイコトカイ』とかどうだろう

 

そして思ったのは、岡村靖幸のカバーなら『カルアミルク』よりも『イケナイコトカイ』(1988年)とかの方が良かったのでは?ということ。

 

イケナイコトカイ

イケナイコトカイ

  • 岡村 靖幸
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

あなたが住んでるマンション

床にはたぶんバーボン ソーダ グラス

抱きしめてよ 今もしも叶うなら


裸でまだいましょう

週刊誌はぼくらのことを知らない

お願いだよ 僕だけの人になってよ

 

引用:『イケナイコトカイ』岡村靖幸

 

あのニヒルな声でこの高音を歌い上げる彼女が見たいという個人的願望もあるんだけど、DAOKOの曲が初期の頃に秘めていたちょっとメンヘラな心境にも似た切実な恋愛感情、加えてどこか膠着状態を楽しむような余裕…というアンビバレントさが満ちている点で、この曲には通ずる部分があるように思う。

 

う~ん、上手く言語化できん。

まあ、含まれるワードとか権利の問題で難しいところがあるんだろうか…単純に本人が歌いたくないだけかもしれないし。

 

 

ぶっちゃけた話、DAOKOには『カルアミルク』っていう曲の印象が全然ないんですよね。 

 

カルアミルクって、やや荒んだ生活を送る年食った若者が、”大人”全般に憧れていたあの頃を思い出して、このままじゃ駄目だもっと誠実に生きなくちゃ、今からでも間に合うかな…という自問をする歌なわけで。

 

そういうちょっと泥臭い曲をどこか浮世離れしたキャラクター性で売っているDAOKOが口にしてしまうと、どうしてもファッションの色が否めなく。ちょっと軽く、あっさりしすぎるのが惜しい。もっとハウスな印象を排して、バラードの色を強めたアレンジで『Fog(new mix)2015年)のように聴かせるとかだったらまた違ったのかもしれない。

 


daoko - Fog (映画「渇き。」ver. new mix)【OFFICIAL】

この曲、中島哲也が自身の作品『渇き。』で使用したことでも話題になりましたよね。

やっぱ良いなぁ…。

 

 

まぁ、双方のファンとしてはこのカバーはめちゃ嬉しいんですけどもね!

くどくどと書いてしまいましたが、自らのイメージを躊躇なく刷新し続けるDAOKOという存在をこれからもずっと応援させていただきます。

 

(終)