今、ホワイト先生に会いたい! 洋ドラの最高峰『ブレイキング・バッド』

こんにちは。アベニティです。

 

最強のふたり』(オリヴィエ・ナカシュエリック・トレダノ監督、2012年)のハリウッドリメイクの予告を観ました。

 


The Upside Trailer #1 (2018) | Movieclips Trailers

 

 

この作品、当初の製作会社がセクハラ・性的暴行によって逮捕されたハーヴェイ・ワインスタインが設立したワインスタイン・カンパニーであったことから、実は公開日が延期となっていたもので。

 

しかしブライアン・クランストン、3分に満たない予告の中でも何とも涙を搾り取ってくれそうな演技で魅せますね!

 

でも

 

 

でも…

 

 

このクソ忙しい秋に会いたいのは…

 

 

化学教師 ウォルター・ホワイト

 

そう、こっちのクランストン!!!

 

我らがハイゼンベルグ、ウォルター・ホワイト先生!!

 

 

最近何話か見直していたんですけど、最高ですね。

 

個人的には長編海外ドラマとかそこまでハマれた作品が少なくて、なかなか洋ドラファンの気持ちが分からずに来たんですけど、今年の冬~春先にこの作品を観てみたらものの見事に大ハマりして。昼夜も食事も忘れて没頭してました。

 

■一歩見誤ればチープの域、ギリギリ&キレキレな要素しかない洋ドラ

 

ガンによる余命宣告を受け、家族へ財産を残さんと思案する高校教師ウォルター・ホワイト覚醒剤が儲かるとの情報を耳にした彼は、低所得者層向けの覚醒剤であるメタンフェタミン、通称メスの密造を決意する。そしてウォルターは達者な科学の知識も相まって、いきなり純度99.1%のブツを精製してしまう。

 

ひょんなことから知り合ったチンピラでジャンキーの若者、ジェシー・ピンクマンと共に商売を始める彼だったが、彼の覚せい剤ブルー・メスはやがて全米を、世界を大きく動かしていく…。

 

NETFLIXで公開中のスピンオフ、『ベター・コール・ソウル』とかも頑張って観てみたけど、ちょっとテンポが飲み込めずに挫折気味です。話とかめちゃくちゃ面白いと思うんだけどなんでかね。やっぱホワイト先生くらい嘘に嘘を重ねて、生活の中で忙しなく演技しまくるギリギリを生きている人の方が心底ハラハラ出来て良いのかもしれないな…。

 

ホワイト先生はどこまで悪事に手を染めようが法に抵触しようが、家族を守るためならそれこそ何でもやってのけちゃう男で。そして彼を突き動かすのが『家族への愛』というのが、物語に程よいスリルと哀しさを与えていてとても良い。ハイレベルに忙しくなった日々を、妻や息子のために生き抜かんとするホワイト先生。

 

そのためにはわりとあっけなくチンピラや悪人を葬ってしまったりもするんだけど、そこで見せる「I'm sorry...」の演技がガチすぎて本当に震えあがってしまって心の底から惚れ込んだ。

 

途中までしか観てないけど、ウォーキング・デッドゾンビ化する家族を見る女性の顔と同等くらいの衝撃で。

 

彼と全く価値観・思考を違えた相棒、ジェシー・ピンクマンの自滅的な人生譚も悲哀を帯びていて大好きだ。これもちょっとの塩梅でギャグっぽくなってしまうところ、物事が起きるタイミング、役者本人迫真のダメ兄ちゃん演技でグイグイ視聴者をノせていて凄い。

 

そして彼らのパフォーマンスを支える粋で意外性のある演出、オープニングからの既に吹っ切れている音楽のオフビート具合もたまらない。諸々、全編の約2/3程度に「外し」の技術が施された要素が安心のクオリティで散りばめられており、非常に抜け目なく思える。

 

 ※ Blu-rayBOXに関してはマジで欲しい。

 

■魅力ある悪役(?)たちと圧巻のラストまで ”我が名はオジマンディアス”

 

悪役(と言っても主人公自体が言い逃れできない大犯罪者なのでその定義が難しいが)の存在も、ブラックでスリリングな物語を大いに盛り上げる。

 

イカれ切った小物マフィアと、メキシコの冷酷な大型マフィアの一団。表向きはフライドチキンのチェーン店を経営している麻薬密売商・ガス。←この初老(?)の黒人ビジネスマンがちょっとリアルだったかな。なのにハッピーツリーフレンズ』みたいな感じで事切れるシーンが完全にギャグだった。

 

元警官で今は危ない仕事に手を染めている探偵のマイクのキャラクターは、この先あらゆるメディアで真似されるだろうな…とか思って観ていたが別にそんなことは無かったぜ(ただ彼が人気だったのは確からしく、この後のスピンオフで真っ先に出てきました)

 

全く悪ではないが、主人公と懇意にしている義理の弟が麻薬捜査官というのも面白かった。ちょっと“バレなすぎ”なのはワザとらしかったけど、彼の最期とかなかなか非情で悲しくも最高で、つい男泣き。

 

 

栄枯盛衰、終わりのない物語など存在しないように、シリーズの最後ではついにウォルターの所業にも裁きの時がやってくる。シーズン5のエピソード14のタイトルは『オジマンディアス』。

 

…こんな名前のヒーロー、『ウォッチメン』(アラン・ムーア、1987年)にもいたな、確かラムセス二世のこと…?この正確な意味は何ぞや、と言えばOzymandiasという元になった詩があるらしく。ここでは邦訳されたものを引用させていただきました。これはイギリスの詩人パーシー・ビッシュ・シェリー(1792-1822) が1800年頃に詠んだ詩で、エジプトの砂漠の中で廃墟と化したオジマンディアス王ラムセス2世の像について描かれたもの。

 

古代の国エジプトから来た旅人はいう

胴体のない巨大な石の足が二本

砂漠の中に立っている 

その近くには
半ば砂にうずもれた首がころがり

 

顔をしかめ 唇をゆがめ 

高慢に嘲笑している
これを彫った彫師たちにはよく見えていたのだ
それらの表情は命のない石に刻み込まれ
本人が滅びた後も生き続けているのだ

台座には記されている

「我が名はオジマンディアス 王の中の王
全能の神よ我が業をみよ そして絶望せよ」

ほかには何も残っていない 
この巨大な遺跡のまわりには
果てしない砂漠が広がっているだけだ

 

引用元:オジマンディアス OZYMANDIAS :シェリー

 

現代のオジマンディアス=ウォルターの悪事は世間に知られ、活動の源であった家族からは見放されていく。砂漠の中で一人悲嘆にくれる、老いた”父親”の姿が鑑賞者の胸を打つ。

 

そして最後、ウォルターが人生のけじめとして向かった先には~~~。

 

もう、この先を観たら「日本のドラマなんざ全く太刀打ちできない…!」と思ってしまいましたね。いや、日本の娯楽作もよく知らない身ながらすみません。反省として、あとで色んな人からお薦めされてる『アンナチュラ』と『重版出来』観てみます。

でも、過去に触れた作品について脳内ライブラリを漁ってみたところで、この作品のラストに敵う感慨を与えてくれたものはありませんでした。

 

台詞という表現を排しても、今までのキャラクター相関をみるみるうちに思い出させていく演技、視線のやり取りの凄みとそれぞれの決着。演出に音楽というありとあらゆる添え物がオミットされた、どこまでも乾いたクールな幕切れが圧倒的、完走後はまず飲み水を欲したほどで。

 

とにかく、忙しいというかかなり切羽詰まった時に思い出すのはこの顔です。そして、その度に会いたくなる。

 

ソフトシェル ブレイキング・バッド ファイナル・シーズン  BOX(4枚組) [DVD]

 

(おわり)