ネクスト・ロボ ガールmeetsロボ はどこまでメモリ(記憶)について描き出すか
近未来感あるデザインの掃除機と共にこんにちは。アベニティです。
Netflixで9月から配信が開始されたSFアニメ『ネクスト・ロボ』(ケビン・アダムス、ジョー・ケイサンダー監督、2018年)。
いかにもな お涙頂戴シーンでつないだ予告編に食傷の気を感じながらも、メモリ(記憶)と感情の関係性にスポットが当ているところに興味を惹かれた。湯浅政明が『カイバ』(2008年)の3話『クロニコのながぐつ』で見せたようなテーマが扱われている~とも取れる内容が気になったのだ。
とにかく、ネトフリでじゃんじゃん流れる予告とTwitterでの広告展開、この手のプロモーションにぶら下がる悪辣な嘲笑ツイートの数々を目にして(←本当に大嫌い)「これは早いうちに観なくてはいけない」との意識を強くしたのは確かである。
気になった作品なのだからまずは自分の目で確認してしまいたい、少しでも余計な印象をつけたくない〜という意思が強くなったのだ!(バアアア〜〜〜ン)
まあ、覚悟というのは暗闇の荒野に進むべき道を切り開く事なのでそれ相応の辛さがあるがどうにか観た。…脳がジョジョにまみれた状態の鑑賞で本当にすみません、5部のアニメ放送が本当に嬉しいんです!!
ネクスト・ロボは以前に中国で「暴走吧!失忆超人」というタイトルで発表されていた作品のアニメ化である。「暴走漫画」という、中国で人気を誇る漫画シリーズの「7723」という作品が原作となっているのだそうだ。詳しくは下記URLの『中国アニメブログ ちゃにめ!』をご参照いただきたい。著者は中華アニメが大好きだと言うちゃに丸さん。
https://chanime.net/baozou-movie-next-robo
中国語は全くできないので邦訳して頂いたデータ等を基に分析する他ないのだけれど、原作のものと思しき画像を見てちょっと仰天。
このようにピクサーを彷彿とさせる絵柄に化けるとは想像もつかないくらいのゆるーいタッチ。ワンパンマンもビックリである(制作はカナダのTangentAnimationという3DCGアニメスタジオのよう。何ヶ国かの合作かしら?これまた間違ってたらすみません)。
諸々さておき、以下雑感です。
■近未来 少女とロボットの交流譚
舞台は、ロボットと人間が共存する近未来。
冒頭、いきなりの「これ、いつものSFアニメの系譜と違うぞ…?」と思わされるOPが来る。主人公・メイの思い出と思しき映像・画像が連ねられていくのだが、その子の顔に怒りマークのようないたずら書きが施されていく。
その風景は決してポジティブなものではない。両親の離婚、それからロボットに入れ込んでしまった母親。友達に複数のロボットをけしかけられ、いじめられた過去〜のようにも見えるものもあり、主人公がロボットに対して感じた不快な思い出の数々には観ていて複雑な気分にさせられる。
少女はそのトラウマ的経験から髪をパンキッシュな風に切り上げる。正に世間の風潮に逆らうように、である。本作はロボット嫌いの少女の物語なのだ。
■失われるメモリと友情 決断の時
ひょんなことからメイと対面し、彼女の忘れ物を届けんと自ら研究所から脱走、彼女のもとへ向かうスーパー・ロボット7723。
7723が持つパワフルな武器に魅入られた少女は、彼を連れていじめっ子が持つロボットを破壊。信頼を勝ち取った彼は、以降も家電ロボットや社会に従事するロボットをぶっ壊して遊びながら(ちょっとひどい!)彼女との仲を深めていく。
ロボットによって傷ついてきた少女は「誰も傷つかない社会を作る」との目的のもとに全てのロボットの破壊を…と考えたのだ。
7723はじきに「少女自身を傷つけないために」破壊をやめたいと提案。そこからふたりの関係は変化、真にかけがえのないものになっていく。
物語が進むにつれ、さまざまな事実が明らかになる。最新鋭のロボット会社CEO・ピンから無料支給された民間向け製品“Qボット”だったが、そこには巨大な陰謀があった。Qボットはピンの伝令で爆弾と化し、市井の人々を消しとばすために用いられるというのだ。7723はその陰謀を止めるため、極秘裏に開発された高スペック兵器だった。
だが最初の機動後すぐ、メイ追跡の際に7723はバッテリーを故障してしまい、容量が上限に達すると記憶がすべて失われてしまう性質を持ってしまった。故に何か覚える度にメモリ(初期からあるシステム等含めて)の取捨選択をしなければならない状況にある。
彼女の武器として存在するのをやめ、記憶の代わりに武器機動システムを削除してしまった7723。だが、そのために彼を追って家を訪ねてきた悪玉CEOがメイの母親を誘拐するのを防げなかった…。激怒する彼女は、彼との決別を告げる。そして〜
■結論:『ネクスト・ロボ』は非常に惜しい!意欲作
結果、彼の記憶は失われてしまったが、彼との冒険や交流で得たメイの思い出や周囲との絆が失われることはない。明るく前向きなラストが眩しい。
車窓越しに見えるロボットの(一部)変形シーンは『トランスフォーマー』(マイケル・ベイ監督、2007年)を彷彿とさせるし、ドロイドみたいなのを多数搭載した飛行メカ諸々はいろんなSFの片鱗を感じるところ。他作からの色々な引用が純粋に面白い(“ユニコーンの折り紙”とかも露骨だけど好き 笑)。
若干ブラックなギャグもふんだんに積んである。ロボットが犬のほえ声を分析したら不適切な罵りワードばっかりだったとか、街で働くロボットが花火よろしく弾ける様子はとても楽しい。
からの最強メカ・アレスと7723の死闘も格好良くて(諸々の画がMOSやBvSみたいだった)、人間を一掃し機械だけの世界を作らんとする悪党側の思惑が明かされてからのセリフの応酬はアツくて哀しく、ラストバトル…彼の決断からの一瞬の笑顔なんかちょっと泣かされてしまった。
スーパーロボ・7723との邂逅までの施設セキュリティがガバガバである点とか(実は少女にハッキングの技術があった…とかならうまく飲み込めたんだけど)、 SF好きには真っ先に指摘されそうな『ロボットに関する原則』の有無が微妙なところ、「メイの母親含め大人がバカすぎるだろ!」みたいなツッコミはある。
またすべてのQボットが監視カメラの役割を果たしているのに、少女に辿り着くのが遅すぎる点とかも若干気になるところで。今思えばメイの母親の誘拐動機についても、若干の意味不明感があった。
まあ上記の諸々は「展開のための展開」であることをちょっと意識させるものだったが、画的な冴えやケレンを求めた結果生じたユルさだと取れるので、そこまで気になるような点ではなかったかなとは思う。
それより7723にどの段階から感情・愛が存在していたのか、最初から「優しい性格」がプログラミングされていたものなのかが曖昧なところ、個人的にはこの点の弱さが少し残念だった。
仮に彼が学習するロボットだとして、彼女との破壊行為の日々から心優しい性質が導き出されたとは思えないので、ここの交流シークエンスをもうひと越え細やかに、丁寧に追えれば(例えばメイがさり気なく彼をいたわる場面を覚えたとか、彼女が過去を思い出して泣いているところを見て胸痛めるようになったとか)結構な傑作になっていたと思う。
華あるアクションとスラップスティックな画作りにとても楽しんだけど、ところどころに惜しさがある作品だった。
でもメモリの容量とどう向き合うか問題は1人に一台パソコンないしスマートフォンを所有する時代であるからして、なかなか身近なテーマで面白かったなと思います。
予想したような記憶と感情の話にはなって行かなかったけど、物語が乗った映像として観た時、この点が想像以上に生々しく迫るとは思わなかった。こうした予想外があるから映画って面白いですよね…。
(おしまい)