吉田まほ『就活狂想曲』辛いのが分かるのに笑える!圧倒的なモーションセンス

おはようございます。アベニティです。

 

4~5年前、眠れぬ夜のネットサーフィンで「YouTubeに上がるショートアニメ」を見漁っていた年が私にはあった。

その頃のYouTubeは今のように誰でも動画の投稿が出来る状態になくて(むしろ“視聴者側も積極的に巻き込んでいくコンテンツ”という状態ではまだニコニコ動画の方に軍配が上がっていた)、比較的高クオリティのものが簡単に発見できたという意味で良い時期だったと思う。数はなくとも、ホラー、ギャグ、恋愛、郷愁を誘うもの…と見る者をどこか安心させる作品で溢れていて、おセンチな年頃の心をそっと癒してくれる作品も数多見つかった。

そんな中で、とても印象的で鮮烈に記憶に残った作品がこの一作。吉田まほ『就活狂想曲(2013年)だ。

 


アニメーション「就活狂想曲」

 

このアニメーションは、現在アートディレクターとして活動している吉田まほさんが、当時在学していた東京芸大・大学院の修了制作として制作したものだという。

公開と同時に各地で大きな反響を呼び、日本の文化庁メディア芸術祭などで入選、フランス・アヌシー国際アニメーション映画祭でも入選を果たすなど様々な場所で高い評価を得たというのが作品についての主な情報だ。

しかし、この作品の良さはそういった作品の経歴を知らずにみても十二分に伝わった。

 

媚びを売りまくって勝ち残らんとする就活生らのある種不気味に思える姿、携帯電話からの連絡を待ち続ける時の焦燥感(これは静かな場面として作ってあって抑えの演出が好印象だった)~等の演出が巧み。しかもバックにあるのはピアノ、及びバイオリンの音。荘厳で哀しく、どこか画自体の雰囲気とそぐわないような音色がまた笑いを誘う。

ダイナミック、かつ鮮やかに視点を変えながらグワングワン躍動していく構図の妙、ユーモア溢れる多種多様な人物表現。作者自身がモデルになっているのか、あまりいい意味で可愛げがないながらもその誇張された挙動で笑わせに来る主人公の動きが楽しい。セル画の枚数に差を出すことで滑らかな見せ場を作ったり、効果的にカクカクムーブを入れたりと❝分かってる❞工夫の具合にもたゆまぬ研究と手慣れた技巧を感じて素晴らしい。流石は藝大…。

 

学生の自由でくだけた格好から一転、親しかった友人らが急に社会人予備軍です!みたいなルックに変わっていくところとか、周囲に一歩置いていかれる感じ等自分自身と照らせば観ていて悔しかったり辛かったりもある。しかしそれを積極的に戯画化、シニカルな笑いへ転じて行こうとするテクニックが良い。今見ても心の底から「凄い!!」と感動を覚えるところだ。アート及び“表現”が人の心を助くというのは、こういう部分を指してのこともあるんじゃないかと思う。

 

製作者の吉田さん、今はどういった活動をされているんだろうなあ…と思って少し調べてみたら、2018年の6月・7月放送のNHKみんなのうた「デッカイばあちゃん」のアニメーション制作をされていた。

 

www.nhk.or.jp

 

かつて楽しんでみていた作品の作者が今も表現の世界で活躍されているという事実に胸が熱くなる。

個人的には湯浅政明山村浩二にも劣らない感性を備えた絵心ある映像作家だと認識しているので、今後の活躍も大いに楽しみにしていきたい。…なんか生意気ですみませんね、俺ももう少し就活頑張ってみます。頑張るぞ〜。

 

(おしまい)