Dr.STONE ドクターストーン! 爽やかでバカアツい遠未来冒険譚

Dr.STONE 1 (ジャンプコミックス)

■2018年最大にホットな痛快作。今読んで欲しいマブな逸品

 

面白い漫画は何ですか?と聞かれれば松本大洋や久野瑶子の作品を真っ先に挙げる私だが、この作者らの作品が普段漫画を読まない方々に非常に勧めづらいものであることは否めないのも確かである。

内容如何より、癖が強いのだ。作家性と言うべき線のタッチ、展開やコマ使いに慣れるまでやや時間もかかるだろう。

だが、漫画好きな友達から激アツな推薦をもらい、手に取ったこの作品『DR.STONE ドクターストーン』は割と色んな人にゴリ推しできる作品のうちにカウントしている。

 

次にくるマンガ大賞2018 コミックス部門2位入賞という華々しい結果も伊達じゃない、あまりに楽しい快作であった。

 

■ジャンル問わずの魅力あるシリーズ   

個人的には、少年漫画の定義まで変えてしまうような逸品であったことをまず記しておく。これを語らずしてジャンプ漫画には触れられない!!という感慨を抱かせるエポックな一作だったとでも言っておく。

とりまあれこれ推し成分を晒す前に、本作のあらすじをば!

 

一瞬にして世界中すべての人間が石と化す、謎の現象に巻き込まれた高校生の大樹。数千年後──。目覚めた大樹とその友・千空はゼロから文明を作ることを決意する!! 空前絶後のSFサバイバル冒険譚、開幕!!

引用元:

https://www.shonenjump.com/j/rensai/drstone.html

 

要素としては従来のアポカリプスもの〜いわゆる世紀末SFを彷彿とさせるものが並ぶ。人類の石化による地上の沈黙、化学文明が崩壊した遠未来、有史以前に逆戻りした新人類の存在。

 

火の鳥1 黎明編 (角川文庫)

火の鳥1 黎明編 (角川文庫)

 

 

本来なら陰鬱で悲しい風情を帯びてもおかしくない条件が揃っている。なんなら手塚治虫火の鳥(1954〜1988年)や藤子・F・不二雄のSF短編にあるような退廃が物語に影を落としてもおかしくないような設定だし、現にそこで「人類の愚かさ」「ありあまる文明に頼って生きた傲慢な人間の末路」を描くのを目的としてこれらのテーマが用いられることがしばしばのことだったと思う。

ただ、それをジャンプ商業誌が扱ったことで抜群の化学反応を見せた。

そういった言わばテンプレ化したSF的状況下に、まさに「THE・少年漫画然とした“化学大好き”な主人公」が放り込まれることによって新手の読み心地が完成させられた。どんどんポジティブに、欲望に赴くまま貪欲に化学を発展させていく千空、気がよくパワフルな親友の大樹

 テクノロジーは人の住み良い世界を築くためにあったのだ!と再確認させるストーリーの軽快さ、そこに生ずる人々のドラマの熱量は間違いなく少年漫画由来のものだ。しかし腕力やがむしゃらな努力のみで物事を解決する渡来の主人公格の姿は無く、皆の知識と機転で勝利をもぎ取る姿がありありと描き出されている。そうあってこそ人間というか、未知に対して果敢に挑戦する姿のかっこよさが光るストーリーにはただただ読み手の知的好奇心と爽快感が刺激されるばかりだ。

作中の実験成功率や怒涛の技術革新に「これはさすがに無理でしょ」と思ってしまうところもあるが、そこは抜群の絵力と物語のスピードでどうにか読まされてしまうというか。そこも少年漫画的ディフォルメの恩恵の中に収まる具合で痛快なのだ。

 

■二人の著者。二人の鬼才による盤石のコラボ

原作はアイシールド21稲垣理一郎。大分ぶっ飛んだ作品展開で人気を集めていた作者ながら、そこにある種の法則性や人物の関係整理を詰めてアツさに転じていく技術は思えば以前よりしっかりと備わっていた。

ドクターストーン』でも、各登場人物らの心情がシンクロして物語が進んでいく様、何気ない1エピソード、作品としての違和感が伏線として手繰り寄せられ怒涛のエモを生むような話運びに(個人的な波長が合うのもあってか)ひたすら滂沱する巻もあった。一番は「なぜ数千年も経った世界で社会を形成する人類がいるのか?」「なぜ彼らに日本語が通じるのか?」と言った引っ掛かりを、少年漫画だから!というメタを隠れ蓑に見事な感動エピソードとして仕立て上げた点にアイデアマンとしての優れた才を見た。単行本第6巻、半端ではないくらい水分を持っていかれました。清々しいまでの人間賛歌に心震わされた読者は私だけでは無いものと思う。 

Boichi氏の格好いい作画も作品の魅力倍加に寄与している。見開きのストーンワールド描写の見事さ、健康的な肉感を湛えたキャラクター達の造形にはぐいぐい惚れ込むところ。挑戦的な主人公の表情、無邪気さの中に艶を滲ませる女性像に感服。自身の漫画作品のために大学で物理学を専攻、演出技術を学ぶため映画専攻の大学院へ進学し、漫画家として20年以上ものキャリアを積んだ熟練の腕が存分に発揮されている。

彼の作品といえば青年誌で掲載されていたセクシー要素山盛りのバトル漫画くらいしか存じなかったので、ここまで少年誌に馴染むギャグや見栄切りのコマで魅せてくれると思わなかった。

 

■今後の展開〜やはり最後はバトルに通ず???

人ばかりが石化したということで、漫画を読みながら何度も「テロ」の二文字がちらつくところなんだけど、

やはり…

天才主人公の千空が発展させた科学力で事件の仕掛け人である第三勢力と火花を散らすような展開が来るのだろうか。見たいような、見たくないような。でもコハククロムカセキといった心強いサポーターを得て科学技術の発展速度がグングン勢いを増しているので、そういった超展開はわりかし覚悟しておくべきか。ベタに異星人侵略もの風になるか、それとも地球全土が同じ地球人による壮大な実験材料とされていた〜とかの事実が明かされてくるのかしら。

(まさか、あの父親がーーー??)

とりあえず今はカリスマの鬼、獅子王との決着がどのような形で齎されるのか楽しみにしていきたい。

 

(完)