ブレードランナー2049〜アンドロイドが見た木馬の夢、電脳の決断

最近、武蔵野美術大学の一施設・イメージライブラリーの企画で、とある映画が上映された。個人的に大好きな一作であり、大興奮したけど鑑賞は叶わなかった。

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ドゥニ・ヴイルヌーブ監督のブレードランナー2049』。公開された2017年で最大の、濃密でエモーショナルなSF活劇である。公開時には劇場で三回観た。

 

金字塔として名を残す前作が作中で蒔いた問い・含みの諸々を伏線として織り込み、”現代版の純正サイエンスフィクション”として大胆に語り直した一作。この脚本の試みからして天晴れだと思う(観た人も多いと思うけど、ネタバレ避けたいのもあってフルで抽象的な言葉を選びます)。

前作でレプリカントのロイ一派がデッカードとの死闘の中でみせた生への執着、渇望と焦燥といった感情を1人のキャラクター・レプリカントKに背負わせ、彼の動向を観客に追わせることで感情移入が容易な作品とされていた。

人は何をもって人足り得るのか”といった前作のテーマを、今回は「主人公の行動」で語り尽くそうとする意気や良し、新たな試みとしても好きだった。不躾にも思えた無印のラストからは想像が出来ないほど優しく、切なく重層的な物語として完成させられている。劇中で示唆される感じから言えばいくらでも「人間vs.レプリカント」というプロットを組めたはずなのに、あえてパーソナルな物語に帰結させたところは本当に分かっているな、と感心した。

 

“パーソナルな物語”というところで特筆したいのは、主人公の私生活について。デッカードは割と組織からも重宝されていた男だったが、本作の捜査官・Kはその出生により周囲から蔑視され、上司には手酷く扱われており友人もいない。癒しはバーチャルの恋人だけ…と、正に暗がりを這うような生活を送っている。そんな彼が自身の秘密に関する情報や憶測に振り回され、真に自らの在るべき姿を発見するまで…この物語構成が非常にアツい。モチーフだけ拾っていけば前作の語り直しなのだけれど、前の作品をもう一声踏み越えていく瞬間に爆発的なエモがあった。

映像空間の点では、人の言葉を借りるなら「機能が失われた遊園地」といったムードの都市景観となっている。30幾年の年月を重ねた地球は汚染が進み、玩具箱をひっくり返したようにみえた出店の数々も以前のような活気を帯びておらず、スラム街の様すら築けていないゴミ廃棄場が延々と続くシーンがあって「ブレランと地続きの世界」と思えば少し新鮮だ。そこに生きる人達、惑星移住を選べ(ば)ず死にゆく地球で朽ちるしかない人民たちの何とも生気が抜けた雰囲気は、前作の退廃感、猥雑なテイストとは全く趣きを違えた何かだ。これも前作ファンに媚びず、時代の変遷を真摯に追ったところとして評価したい。


結論、色々盛り込みすぎ、ミスリードのための説明を入れすぎたために冗長に感じる部分も無くはない。神格としての表現が過ぎるかな…と思うところもある。が、作品自体が目指した方向性や中盤からラストにかけての盛り上げに最ッ高に滾らされたのでほぼ文句が霧散したという感じ。ぶっちゃけ途中からずっとボロ泣きしながら観ていたし、いちヴィルヌーヴファンからしてみたら彼特有の捻りの効いた展開やロジックに膝を打った瞬間がいくつもあった。 決して万人に薦められるような明快なサスペンスとは言い難いが、前作ファンなら観て損はない。個人的には原典越えの傑作だと思った。


(監督特有の女性観というか、やっぱヴィルヌーヴは女性を神聖視、理解不能なまでに愛ある存在として表現しすぎるきらいがあるかなぁとは思った。ただ、その行き過ぎ具合が垣間見えるセックス(未満)シーン等は単に映像として不気味でもあり、面白く観れたので作品全体からみてもプラスに働いていたようにも思う。ただ生殖本能に由来しない、プログラムからなるジョイの愛と献身については人が持つそれとは本質的に異なるとも思うので、彼女にあてられた発言や行動すべてを”性認識の誤り”とは言わない)

 

一定層からの支持は受けながらも往年のファンからはとやかく言われてしまったようで、コアな映画情報誌の『映画秘宝(洋泉社)ではその年公開作のベスト・トホホそれぞれで1位を飾ってしまうこととなっていたのが記憶に新しい。

 

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文句も分かる。高橋ヨシキ氏はラジオで「初代ブレランは薄汚れた未来世界での冒険を肌身で追体験するような、擬似未来旅行的な楽しみ方ができた一作だった。作りこまれた細部には何度観ても覚えきれないような情報が詰め込まれており、年齢問わずSFファンはそのスルメ映画っぷりに夢中になった。自分もリバイバル上映の際には何度も劇場に足を運んだ」と語っていた。

本作がそう言ったタイプの映画だったか?と言えばそれは違う。あくまであの物語のその後を補完するように話が構成されていたという点を除けば、ブレランのその後」とは思えないほど寂しい映像にコレジャナイ感を覚えても仕方ないところだと思った。

まあ、そう言ったオールドファンの切り捨て方をしても、ヴイルヌーブ独自色をふんだんに盛り込みながら「ハッピーエンドのその後」を描き切ったという点でも私的激推しな一作です。

 

※この記事は以前のfilmarksでの投稿に加筆・修正を加えたものです。

 

(完)