ぼくのエリ 北欧産のジュブナイルホラー、独特の風味

おはようございます。アベニティです。

 

最近肌寒くなってきましたね。暑い時期のホラーは完全に風物詩というべきイベントで楽しいですが、冬にはちょっと冷涼な雰囲気を纏った一作を観るのもおススメです。個人的には『ぼくのエリ  200歳の少女』トーマス・アルフレッドソン監督、2008年)を推したい。以下、あらすじです。

 

ストックホルム郊外で母親と暮らす12歳のオスカー(カーレ・ヘーデブラント)は、学校で同級生にいじめられていた。ある晩、彼はアパートの隣の部屋に引っ越して来たエリ(リーナ・レアンデション)という少女と出会う。同じころ、近くの街では青年が逆さづりにされてノドを切り裂かれ、血を抜き取られるという残忍な殺人事件が起きる。

引用元:

https://movies.yahoo.co.jp/movie/ぼくのエリ%E3%80%80200歳の少女/335935/

 

ぼくのエリ 200歳の少女 [Blu-ray]


本作は、北欧から来た吸血鬼映画だ。いじめられっ子の少年が出会った奇妙なヴァンパイア少女との交流が描かれる物語。ストックホルムの寒冷な大地での初恋、現実を受け入れる際に見せる少年・少女の表情に何とも言えない痛みが走る。

 

他人に感じたはじめての感情…愛した存在とのコミュニケーションを求めるがために犯罪を犯してしまう哀しい大人と、周囲から苛められながらも暴力を以て迫る相手に立ち向かえない気弱な少年。寒冷な土地で繰り広げられる濃密なボーイ・ミーツ・ガールに胸キュン。

 

ちょっと間抜けに思えるようなシーンに加えて主人公の日常にヌッと顔を出す異常な世界の様相、奇妙な場面展開が面白い。

全体的に観たことが無いような、フレッシュな画作りでの凝り気味アングルが続くのはスウェーデン映画の特質によるものなのか、監督の癖なのかは分からないがそれも異国情緒を感じさせて良い。

暗中の白、赤といった色が映える残酷なシーンや主人公らの純粋さが齎す儚い場面はひたすら美しく、鑑賞後は思わずロマンティックかつウブウブな、若すぎる二人の行く末を案じてしまう。

 

少し驚くのは、「エリの本名はエライアスでもともと男の子だった」ということ。原作小説には、エリには昔、吸血鬼化させられる際に去勢されてしまったという設定があるという。本来あのぼかしが入っていた場面では“男性器を去勢された痕”が見られるのだ。確かにエリ自身も「女の子じゃなくても、私のこと好き…?」との旨のことを言っていたが、ここでの意味は自分がバンパイアだという事実を指すのではなく、自身が性別的に男性であるということらしい。そこには性に囚われない、深い愛のかたちがある。

エリのために人を殺し、血を集めていた中年男性。男は体力・精神力の衰えでミスを犯し、悲壮な最期を遂げる。

本作品の興味深い点の一つとして、おそらくこの少年は前任者と同じような末路は辿らないかも…?と思わせるところがある。

あまりにまっさらで優しい印象を残す少年の姿に肉欲的な穢れを感じないからこそかもしれないが、オスカーはオスカーでうまく生に際しての難題をかわし、エリのために身を粉して生きていくのではないか…と憶測してしまう。

ハリウッド版のリメイク『モールス』マット・リーヴス監督、2010年)にはこういった叙情を感じなかったのでうまいこと本作品のテイストが引き継がれておらず残念だった。かと言ってオリジナルと大きく印象を違えるような作品になっていなかったために駄作いらなかったリメイクと言われてしまうのだと考えている。

故に『モールス』に“劣化版”との刻印が押されてしまっているのは仕方がない点だろう。クロエちゃんの存在感は良かったですけど…。

 

もし吸血鬼が現代社会にいたら?というのを抜群のフレッシュさで丁寧に見せる変化球ホラーとして、また少年少女の初恋映画として大好きな一作です。そういった作品に興味あれば是非、この世界観に浸って頂きたいところ。

 

※この記事は以前のfilmarksでの投稿に加筆・修正を加えたものです。

 

(完)