ムーンライト 切なさ極まる同性愛と青い月光

ムーンライト(字幕版)

先日イコライザー2』で同作の主演の一人、アシュトン・サンダースを見つけて唐突にこの作品を思い出し、内容をフワッと連想して観たくなった。

Blu-rayを再生する。芳醇な画面、光の具合には良い酒を煽った時のようにぐらぐら酔わされた。

 

まず、当作のあらすじです。

シャロン(アレックス・ヒバート)は、学校では“リトル”というあだ名でいじめられている内気な性格の男の子。ある日、いつものようにいじめっ子たちに追いかけられ廃墟まで追い詰められると、それを見ていたフアン(マハーシャラ・アリ)に助けられる。フアンは、何も話をしてくれないシャロンを恋人のテレサジャネール・モネイ)の元に連れて帰る。その後も何かとシャロンを気にかけるようになり、シャロンもフアンに心を開いていく。ある日、海で泳ぎ方を教えてもらいながら、フアンから「自分の道は自分で決めろよ。周りに決めさせるな」と生き方を教わり、彼を父親代わりのように感じはじめる。家に帰っても行き場のないシャロンにとって、フアンと、男友達ケヴィンだけが、心許せる唯一の“友達”だった。

引用元:http://moonlight-movie.jp/sp/story/

三部構成の作品だが、上記が“リトル”と呼ばれていた幼年時代のあらすじ。

そして、少年時代の第二部で急展開に。

高校生になったシャロンは相変わらず学校でもいじめられている。母親のポーラは麻薬におぼれ酩酊状態の日も多くなっていた。自分の家で居場所を失ったシャロンは、フアンとテレサの家へ向かう。テレサは「うちのルールは愛と自信を持つこと」と、昔と変わらない絶対的な愛情でシャロンを迎えてくれる。 とある日、同級生に罵られひどいショックを受けたシャロンは、夜の浜辺に向かうと、偶然ケヴィンも浜辺にやってくる。密かにケヴィンに惹かれているシャロン。月明かりが輝く夜、二人は初めてお互いの心に触れることに… しかし、その翌日、学校ではある事件が起きてしまう。

引用元:http://moonlight-movie.jp/sp/story/

これ、幼年期、少年期、青年期と、それぞれで特別ルックが似た俳優が起用されているわけではないんですよね。ただ視線の動きだったり、各人物の繊細さを感じさせる仕草を拾っていくことで同一人物に見せるという手管がとても面白い。

少年期を演じたサンダースは、正に薄幸の色を表情に滲ませた佇まい、煮え切らない想いを内包した人物を演じさせれば冴えが光る俳優で。『イコライザー2』でもその存在感は物語の彩りに一役買っていた。安定のデンゼル・ワシントンに対して置かれた、心許無く揺れるキャラクターをしっかり魅力的に演じ切れていたのが印象深い。

また、ここで描かれているのはネグロイド(黒色人種)のコミュニティでの物語だが、コーカソイド(白色人種)の人々が主要人物として一切登場しない、主人公周りの関係性に絡んでこないという点がある意味で勇敢だなあと。

凡の思考であればゲイの同性愛者を登場させるのだから、悪役のコーカソイドを登場させて云々〜と言った話なんかいくらでも作れそうなところ、そこで同人種間にも醜さはあると簡潔ながらも丁寧に活写、物語の普遍性が高められていた。

 

そういった限定性もさることながら、何かを一方的に弾圧するわけではなく、かと言って肯定し続けるわけではなく…といったバランスが非常に心地良く、映画館で観た時には劇場内の空調が齎す風の動き等に思わず身を委ね、自分も劇中の海辺に立っていると錯覚してしまうほどのめり込んだ。ブルーの月の光に照らされ光る、彼らの肌の美しさたるや。

一人の人生の流動について意識させられる逸品であり、個人的な好き嫌いは別としても観ておいた方が良い作品であることは確かです。


色々印象的な場面があれど、一番記憶に残ったのは終盤の食事シーン。

主人公・シャロンが口にするのが美味そうな料理であることは間違いないが、それが”シャロンしか食べさせてもらえない、非常に限定的で特別な手料理”であることがわかるとどうにも切ない気分になる(俺もその料理食べてみたい!)。

あのレストランの場面には間違いなくフィクションを超えた個の人生があって、思い出しただけでも目頭が熱くなるし、その重さに胸が圧迫される。


ラストの場面がハッピーエンドな着地であったのか、失われた時を嘆くシーンとして見せられていたのかどうかは明確にされているわけではない(そこで安易に解釈させない間が用意されていたりもする)が、海辺に佇むあの頃のシャロンの姿によって”未来は今”~といった雰囲気が印象的に示唆されており、様々な人に共感をもたらす含みがある点にも高い技巧を感じた。

ただ、それが作為的にみえないところが最大の特筆ポイントだろう。リトルシャロンブラックのキャラクター設定をしっかり外見から作り込みながらも偶発性のある仕草をちゃんとカメラで拾っていたり、母親役のナオミ・ハリスは3日間で撮影を完了させていたり〜と、作り込まれた色調や画面構成に加えて俳優が本来持ち得ている(役に対するアプロ―チ込み以外の)「自然」で物語を完成させていくような意識が凄い。


本人に非はなくとも、人に理解されづらいセクシュアリティに加えてそれと全く別のベクトルで世間的に正しいと認知されない道を辿ってしまった、いじらしくも不遇な主人公像。ここまで画面内の人を愛おしく感じた作品も久々だった。とりあえずBlu-rayを手にしたので、気が沈んだ時に永遠に観ることにする。

 

(おわり)